関係各位
新年度を迎え、今年は各学校では、新型コロナウイルス感染拡大防止策を講じつつ入学式を行ったところが多かったようです。大学でも、今学期は通学を基本とし、対面授業を増やす方向ですが、新型コロナウイルス感染症対策として「まん延防止等重点措置」が大阪府、兵庫県、宮城県、東京都や京都府、沖縄県の市に適用されるなど、予断を許さない状況となっています。本ネットワークが主催する防災・減災シンポジウムなどについては、今年は未だ開催の見通しが立っていません。本メルマガでは、コロナ禍で行われた博物館の活動や防災フォーラム、総務省の防災まちづくり大賞受賞についてお知らせします。
新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延してから1年以上たちますが、複数の変異種が見つかるなど、感染症の拡大は終息する兆しが見えません。社会のあらゆる場所で、大きな影響が出ていますが、博物館もご多分に漏れません。私が勤める神奈川県立生命の星・地球博物館でも様々な影響がありました。緊急事態宣言の発出に伴い臨時休館となり、計画していた特別展示の中止や各種イベント・行事の休止が余儀なくされました。ボランティアや友の会の活動も休止です。また、ショップやレストラン、受付など委託事業も休止せざるを得ず、事業者ならびに従業員の皆さんにご心配をおかけすることとなりました。緊急事態宣言が解除されたあとは、入館者と博物館で働く人たちが「感染しない、感染させない」ことを目標として、感染症拡大防止対策マニュアルをつくり、三密を避け、展示物や展示器具などに触れないようにすること、館内の清掃と消毒をこまめにするようなど、様々な対策を講じています。今年の3月末からは入館も予約制としました。幸いなことに、来場者と職員・従業員には感染者が出ていません。
しかし、臨時休館中でも博物館の活動がすべて休止していたわけではありません。職員をはじめ各種従業員が感染予防対策を徹底しながら、それぞれの業務遂行に努めていました。休館中でも当館を楽しんでいただこうと、職員のアイデアでホームページを活用した「ウェブで楽しむ地球博ページ」や当館公式Twitterでの発信をしてきました。Webの活用は、新たな利用者の開拓につながったようです。博物館同士のあらたな連携もできました。災い転じて福となす、でしょうか。
ところで、日本では毎年のように台風、集中豪雨、地震、火山噴火などの自然現象による災害が発生し、国民生活に大きな影響をもたらします。博物館も自然災害に見舞われることがあります。最近では、2011年東日本大震災、2016年熊本地震などにより博物館が被災し、貴重な資料が被害を受けました。また、2019年台風第19号の集中豪雨による多摩川の増水で、川崎市市民ミュージアムの地下収蔵庫が浸水し、貴重な資料が破損したことは記憶に新しいことです。その復旧作業と標本レスキュー作業が、コロナ禍の現在でも関係各方面の協力を得ながら続けられています。また2020年の熊本集中豪雨でも、ある施設に保管されていた植物標本が被災し、その標本レスキューを全国の関係機関が協力して行っています。博物館にとっても自然災害は他人事ではないのです。
自然現象は地球の営みですので、私たち人類に止めることはできません。これらの自然現象が起きるものであるということを前提に、私たちは暮らしていくことが肝要なのでしょう。
横浜市立太尾小学校には、私は2014~2015年度に校長の任にあり、その間に、この学校と地域が開校以来培ってきた学校地域保護者連携をベースに「学校を拠点とした防災まちづくり」を地域、保護者、職員の皆さんとの協議を経て再構築することができました。2019年11月の地域防災拠点訓練には、荏本孝久先生はじめ防災塾・だるまの皆さん、防災教育の研究者とともに視察しましたが、私が去って4年経過しても、この「学校を拠点とした学区全体での防災まちづくり」が持続発展していることを確認することができました。しかし、その実践は2018年文部科学大臣賞を受賞した北綱島小学校に比べると全市的に知られておらず、ただただ皆さんが頑張っている姿が心に残りました。2020年にこの“かながわ人と智のネットワーク”を通じて「防災まちづくり大賞」の存在を知り、「そうだ!これだ!」と応募してみることとし、事実経過を調査書にまとめて、現任校長と地域防災拠点運営委員会本部長と共有の上、提出させていただきました。“横浜市立太尾(ふとお)小学区防災まちづくり連携「横浜における学校を拠点とした学区全体での防災まちづくり」”は最高賞の「総務大臣賞」をいただくこととなり、頑張ってきた地域、PTAや“お父さんたちの会”など保護者の皆様、職員の皆様のものとなったことは無上の喜びです。
私が太尾小学校に赴任した2014年当時、太尾小学区には、自治会とマンション住民との乖離が存在していたものの、全自治会、銀行やスーパー等の事業所、各種団体すべてを統合して、マンションの子どもたちも参加できる「ゆるさと祭り」を学校運営協議会と実行委員会で開催するといった地域連携の土壌がありました。私が前任の北綱島小学校で行っていた「授業参観と地域防災拠点訓練との統合」を提案したところ、学校運営協議会で早速その秋に開催することを決定しました。さらに2015年度には、地域防災拠点訓練の当日に、学校の授業として子どもたち、保護者を対象に「初期対応訓練」を実施するに至り、2019年に視察したときも、毎年工夫して子どもと保護者が参加する「初期対応訓練」を実施していました。この経験から、学校を拠点に、「防災」をテーマに、「地域社会の再構築」が実現可能であることがわかったのです。
また、太尾小学校PTAの保健厚生委員会が「救護班支援」活動、「お父さんたちの会」が横浜防災ライセンスリーダーの資格も取得して「救出班支援」を担うなど主体として活動し、その姿を児童と保護者が毎年見て育つという良い循環ができています。2015年度の夏季には、主幹教諭からの申し出もあり、「職員防災リーダー研修」を実施し、そこで各班のリーダーが身につけたことを全職員に実技で伝達することによって、横浜市学校防災計画に定められた職員の職務、児童の安全確保、早期の授業再開の他に、円滑な避難所開設と運営支援ができる職員組織が短期に育成されました。ここには、区長を初めとする港北区の支援が得られ、消防署長が「お父さんたちの会」への救出技能訓練をしてくださったり、消防団の協力もあり、地域防災コーディネーターとしての主幹教諭と職員防災組織の防災力が向上し、「公助」としての自覚のあるすぐれた「防災職員集団」が育成できたと思います。
太尾小学校ホームページのトップページには、「ふるさと太尾構想」と「ふるさと太尾防災震災時行動マニュアル」が今もあります。災害対策基本法に定められた「地区防災計画」に近いものが、2015年には学校運営協議会で共通理解化され、学区の8,000世帯にも配布されていました。横浜市港北区のような若い保護者世帯が多い人口密度が高い地域では、「学区」という生活圏で、事実上の「地区防災計画」に近いものが確立可能であることを実証しています。
東日本大震災の津波で被災した石巻市立大川小学校では、児童74名、職員10名が犠牲になっただけでなく、地震発生当時地区にいた地域住民209人のうち175人が死亡(死亡率83.7%)したという悲劇は、実は日本全国、多くの地域社会にある脆弱性が不運な形で現れたものであると考えます。この太尾小学校学区の防災まちづくりは、学校運営協議会と地域の団体、保護者、学校連携組織が機能し、乖離していた自治会とマンション群の住民の連携により地域社会を再構築した「実証」例であり、「学校の教育活動とまちづくり、防災の統合による防災まちづくり」のこれから取り組むべき課題と方向性の道標となると考えます。
今回の受賞にあたり、高いご評価をいただきました審査委員の皆様に感謝申し上げます。また、災害を克服できる地域社会を創出するためこの実践例を自治体、国全体に一般化していくため、幅広い皆様からご指導、ご助言をいただければ幸いです。
2021年3月6日(土)、神奈川大学の防災・減災フォ-ラムが開催されました(主催:神奈川大学、運営主管:神奈川新聞社、後援:神奈川県、横浜市、神奈川県教育委員会、横浜市教育委員会、神奈川県私立中学高等学校協会)。これは、昨年3月に開催を予定していましたがコロナ禍のため延期され、「はまぎんホールヴィアマーレ」(横浜市西区みなとみらい3-1-1)を会場として、観客はなくオンライン配信の形で開催されました。
本フォ-ラムでは、まず、東日本大震災の被災地の現状を踏まえ、災害後から現在までの状況を映像とともに紹介しました。また、基調講演やパネルディスカッションを通じて、神奈川大学の教職員・学生の長期間の関わりから、復興に向けた過程で起きた様々な課題についてこの10年を振り返るとともに、東日本大震災以外のさまざまな災害や東日本大震災以降に起きた大災害から、何が共通の課題であるかを提起しました。東日本大震災では、神奈川県は亡くなった方もいる被災県であり、神奈川大学が本拠を構える横浜市は、「南海トラフ地震」、「相模トラフ地震」、「首都直下地震」の3つの巨大地震の震災リスクを抱えるエリアです。このようなエリア特性を踏まえ、風化を防ぎ、継続的に災害について学び、最低限、命を落とさないための備え、住み続けるための地域とのつながりの強化、個人がなすべきこと、地域でともに行動すべきことは何かを議論するなかで、自分事としての「防災」や「地域コミュニティ」の在り方を考え、将来に向けてどう取り組むか、具体的なイメージを持てるような方向性を示す場となりました。
プログラムの第一部では、「神奈川大学と東日本大震災との関わり」、「兼子良夫理事長・学長による主催者あいさつ」、基調講演1(佐藤孝治・神奈川大学名誉教授)「三陸被災地の現状と問題点~想定外、10年目の現実~」、第二部“これからの防災減災を地域の視点から考える”では、基調講演2(荏本孝久・神奈川大学工学部教授)「地域で備える‐住み続けられるまちづくりを目指して‐」の発表の後、パネルディスカッション“地域防災の持続性のつくり方について”が行われました。
コーディネーターは曽我部昌史先生(神奈川大学工学部教授)が担当し、パネリストとして、鶴見区市場西中町まちづくり協議会事務局長・熊谷起一氏が「歴史と地域をいかした防災まちづくりについて」、防災塾だるま副塾長・元横浜市立小学校校長/防災士・鷲山龍太郎氏が「横浜における学校を拠点として学区全体での防災まちづくりとは」、NPO法人プラス・アーツ・永田宏和氏が「阪神大震災の都市部の震災の経験からどのように楽しみながら防災について学び、気を付けていくか」、神奈川大学工学部建築学科教授/防災塾・だるま塾長・荏本孝久が「防災情報の共有化と人的ネットワークの構築を目的とした、防災塾・だるまの活動」について、各パネラーが継続している活動の経験を報告し、共有するとともに、当事者意識を持って地域と共にどのように行動をすべきかについて、意見交換がなされました。
フォ-ラムの参加申込数は312人(他視聴者数が156人)で、年齢層は、10代(2.6%)、20代(5.5%)、30代(4.8%)、40代(10%)、50代(21.2%)、60代(19.9%)、70代(28.3%)、80代(7.7%)と、50才代以上の参加が多く、特に70才代の参加者が多くみられました。また、地域別では神奈川(203人)、東京(51人)、埼玉(17人)、千葉(14人)、茨城(5人)、静岡(4人)、栃木(3人)、沖縄・大阪・兵庫・群馬(各2人)、高知・愛知・宮崎・富山・山形・岐阜・熊本(各1人)でした。神奈川県内を始め首都圏が大多数を占めましたが、会場だけではなくオンライン配信されたことにより、関西や四国・九州方面など広い地域から参加され、フォ-ラムを共有すると言う大きなメリットがありました。参加者からのコメントとして、後日事務局宛に寄せられた感想では、「地元、神奈川大学の災害時減災への地道な取り組み姿勢に加え、拠点に携わる一員として得ることが多々あった」などのコメントが寄せられました。
なお、本フォーラムの記事が4月9日(金)付けの神奈川新聞、朝日新聞、読売新聞の各紙に掲載されましたので、こちらでもご覧ください。
Tel:03-3249-4120 Fax:03-3249-7296
本メールは、文部科学省の地域防災対策支援プロジェクトや防災・減災ミーティングなどでご支援・ご協力いただいた団体・個人の方々にお送りしています。