月別アーカイブ: 2015年2月

ICT-BCP その3

ICT部門は、全てのサービスを運用するために、ハードェア、ソフトウェア、及び保守を提供してくれる業者(ベンダー)を活用しています。ICT−BCPを策定する際、このベンダーとの関係をどう活かすか悩ましいと感じている人は多いはずです。特に、運用のために人を派遣してもらっていれば尚更です。

東日本大震災で明らかになったことのひとつに、自治体とベンダーとの契約には災害条項は含まれていなかったことがあります。この場合の災害条項とは災害時の努力義務です。一般的には、保守契約の適用除外項目の中に災害(地震)が明記されていますので、地震が起きた時点で契約が無効になります。それは止むを得ないと思うのですが、復旧作業に一緒に携わって欲しいのに、何も契約が存在しないことになってしまうのです。もちろん、ベンダーにとっても災害時対応は最も難しいことのひとつなので、何かを約束することはなかなか無いとは思いますが。

ICT-BCP策定の際は、この部分にも踏み込みます。前回言及した具体的な被害想定に基いて、お互い最善を尽くす手段を決めるのです。幸い多くのベンダーはICT-BCP策定支援の経験もあります。自治体側が具体的な被害想定を作り、ベンダー側がそれへの対応を考え、お互いに実現可能性や忘れている点がないかを検討することができれば良いと思います。ややもすると、被害想定も含めてたたき台を作って欲しいとベンダーに依頼したいかもしれませんが、ここは踏ん張りどころだと思います。発災時点から災害対策本部は様々な情報を集めることが可能なのですから。

念の為に書くと、「サーバ類が設置されているラックを免震のものに替えましょう」という提案などは、庁舎が無事で、電源・通信も安定供給されている場合には検討価値があります。ICT-BCPを検討すると、視野が広くなるので、少なくとも部分解決策の採択を判断する前に全体を俯瞰することにつながると思います。

余談ですが、分かっているつもりでも書いてみると気づくことがあります。自分の市町村、普段働いている庁舎、仕事をする端末など、被害想定という目で見直し書き出してみることを薦めます。

続く

 

 

 

 

 

ICT-BCP その2

地域防災計画には地震による被害想定があります。ICT-BCP策定の場合にもこれを活用します。ただし、この被害想定は人的被害(死者数、重傷者数)、住家被害(全壊・半壊棟数)が中心です。人的被害と住家被害から、生き埋め者救出、怪我人搬送、応急危険度判定、避難所開設・避難者受け入れ、死亡届の受付、罹災証明書発行などの仕事量が想定できます。被害想定の中には電力被害、通信被害に言及するものもありますが、視点はその自治体のエリア全体です。

ところが、ICT-BCP策定時に必要なのは特定箇所の想定です。各庁舎(支所含む)の揺れによる被害がどの程度か、庁舎内部にあるサーバ・PC等の情報機器の被害はどの程度か、各庁舎への電力、通信はいつ復旧するかです。細かいことを言えば、庁舎の中の、ある特定の部屋のサーバあるいはPCに電力、通信を供給できるかです。そして、万が一代替物品を輸送する必要があるなら、対象となる場所までの緊急輸送路等の通行可否、車両・運転手調達、あるいはヘリコプターによる輸送なども重要な要素になります。

地震が起きると、津波、火災、そして土砂崩れ、液状化が続く場合があります。揺れによる被害だけでなく、それに続く被害も念頭に想定を行うことが大事です。

庁舎の耐震性が無い場合、あるいは津波浸水域にある場合、地域防災計画に災害対策本部の代替設置場所が記載されています。そうなると情報システムを復旧する拠点も代替場所の想定が必要です。これは必ずしも災害対策本部と同じ場所になるとは限りません。なぜなら、情報システムを復旧する拠点には電源及び通信が不可欠だからです。電力や通信の復旧を待つだけでは能がありません。停電が長期に渡る場合も想定し、代替場所を想定しておくことが肝要です。

ある程度被害想定を具体的に描いてくると、いつどんなサービスを復旧するのかが目標として必要になってきます。ICT-BCPを策定するにはこれが不可欠です。住民基本台帳システム、課税台帳システム、国民健康保険システム、後期高齢者医療システムなどが優先度が高いサービスだと思われます。しかし、各自治体によって異なるかもしれません。これを全庁合意の下で決めるのがICT-BCPの最も重要な作業のひとつと言えるでしょう。これらのシステムを使用している部門(住民課や税務課など)に、発災後の仕事量と方法(場所含む)を確認し、想定されるシステム復旧工数と重要度を順位付けします。もちろん、より多くのシステムができるだけ早く使えることが望ましいですが、残念ながら復旧に投入できる人数、代替物品、時間には限りがあります。総合的な判断から、いつどんなサービスを優先して復旧するのかを目標に掲げます。

続く

ICT-BCP その1

ICT-BCPを策定しようか悩んでいる自治体として次のようなところを想定します。人口数万人の市町村。ICT部門である情報システムグループは5〜8名の陣容で、ICT-BCPに詳しい人材はいないと仮定します。組織的には総務部配下です。

悩みのひとつは、予算が厳しく情報システムに新たな投資はできないことだと思います。想像の通り、ICT-BCPを策定するのには費用はあまりかかりません。なぜなら主な成果物は文書だから。ただし、どの程度危ういか評価した結果、何かしら事前に対策を打つと決断し実行するといくばくかの費用がかかります。つまり、予算が無いからICT-BCPは策定できない、ことはありません。ICT-BCP策定に踏み込むと、相当な予算が必要になる、ことはないのです。

悩みのふたつ目は、推進する人材がいないことだと思います。あるいは、他業務との兼務でやってもらうしかない状況があると思います。ICT-BCP策定に限らず、小規模市町村の中で、恵まれた環境で始められるプロジェクトはほとんど無いでしょう。そうなると、やらなければならないいくつかの政策の中で、ICT-BCP策定をどのあたりに位置付けるかによります。市町村トップがやると決めるのが良いのですが、判断するまでに至っていないところは未だたくさんあると思います。

ひとつの考え方は、ICT-BCP策定の中で出てくるPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルは、他のプロジェクトにも応用できるものなので、その導入のためにICT-BCPを使うというものです。逆の発想です。自分のところにPDCAサイクルを導入してみるとどうなるか理解するために、ICT-BCPで試すのです。ICTが向かう方向はMobile Firstです。情報を提供する側も、受ける側も場所に縛られなくなるということです。現在の多くの自治体の情報システムは対応していませんが、徐々に進み、いずれ劇的に変わるのではないかと思います。自治体クラウドはその一歩とも言えます。そして、情報セキュリティへの組織的対応を必ず求められますが、その際には、PDCAは必須となります。

ところで、ICT-BCPを推進するのにICTの知識は無くても大丈夫なのかと心配する方がいるかもしれません。答は「ある方が良いが、無くても構いません」です。総務省から懇切丁寧なガイドラインも出ています。強いてどんな人が向いているかと言えば、ICT-BCPは大地震のような場合に発動・実行されるものなので、危機に瀕する状況を思い描くことが得意な人が良いと思います。たとえば、如何に早く必要物資を手配し必要な場所へ届けるかという非常時物流を思い描けるといいです。また、運用している情報システムの被害状況をすばやく掴むには、停電時、あるいは通信不通時は、ほとんど役に立たないICT部門が管理している機器ではなく、防災行政無線だったり、消防団の無線だったりするので、それらの活用の発想に長けているといいですね。

ICT部門も推進するべきでしょうか。答は、もちろん、Yesです。ただし、主に推進する人材は必ずしもICT部門からでなくて良いと思います。このあたりは各々の組織の状況によりますが、このような組み合わせを可能と考えるなら、選択肢が増えるでしょう。

続く

 

 

ICT-BCP

BCP(Business Continuity Planning)は業務継続計画と訳します。企業は、大きな災害や想定外の問題に見舞われた際、どのように生き延びるべきかの指針としてBCPを策定し運用しています。それは事業が持つ脆弱性が思っているより大きいためです。常に競争に直面している企業は、突然赤字に転落したり、場合によっては事業譲渡、あるいは倒産もあり得るのです。対極にあるのが公共事業体です。「つぶれる」ことを想像するのは難しいです。ところが、東日本大震災で明らかになったのは、庁舎が失われ、インフラが失われ、そして人材も失われると、住民サービスを継続することが非常に厳しいということです。しかも、代替してくれるところは無いのです。そこで、自治体にもBCPを策定し、危機に瀕する場合に、適切な対応を取ることが期待されています。特に、住民基本台帳の元データのように貴重なものが失われ、バックアップも同時に失われると、その復旧にとてつもない労力がかかり、その影響が被災した人々に及ぶことが明らかになりました。そのため、BCP策定の前であっても、ICT-BCPの策定を急ぐよう求められています。

ところが、なかなか策定が進んでいないようです。そこで、これまでの経験から、いくつかのポイントを指摘したいと思います。何回かに分けて書くことになると思いますが、ICT-BCPに取り組んでみようと思う人・組織が増えることを願っています。