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ICT-BCP その1

ICT-BCPを策定しようか悩んでいる自治体として次のようなところを想定します。人口数万人の市町村。ICT部門である情報システムグループは5〜8名の陣容で、ICT-BCPに詳しい人材はいないと仮定します。組織的には総務部配下です。

 

悩みのひとつは、予算が厳しく情報システムに新たな投資はできないことだと思います。想像の通り、ICT-BCPを策定するのには費用はあまりかかりません。なぜなら主な成果物は文書だから。ただし、どの程度危ういか評価した結果、何かしら事前に対策を打つと決断し実行するといくばくかの費用がかかります。つまり、予算が無いからICT-BCPは策定できない、ことはありません。ICT-BCP策定に踏み込むと、相当な予算が必要になる、ことはないのです。

 

悩みのふたつ目は、推進する人材がいないことだと思います。あるいは、他業務との兼務でやってもらうしかない状況があると思います。ICT-BCP策定に限らず、小規模市町村の中で、恵まれた環境で始められるプロジェクトはほとんど無いでしょう。そうなると、やらなければならないいくつかの政策の中で、ICT-BCP策定をどのあたりに位置付けるかによります。市町村トップがやると決めるのが良いのですが、判断するまでに至っていないところは未だたくさんあると思います。

 

ひとつの考え方は、ICT-BCP策定の中で出てくるPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルは、他のプロジェクトにも応用できるものなので、その導入のためにICT-BCPを使うというものです。逆の発想です。自分のところにPDCAサイクルを導入してみるとどうなるか理解するために、ICT-BCPで試すのです。ICTが向かう方向はMobile Firstです。情報を提供する側も、受ける側も場所に縛られなくなるということです。現在の多くの自治体の情報システムは対応していませんが、徐々に進み、いずれ劇的に変わるのではないかと思います。自治体クラウドはその一歩とも言えます。そして、情報セキュリティへの組織的対応を必ず求められますが、その際には、PDCAは必須となります。

 

ところで、ICT-BCPを推進するのにICTの知識は無くても大丈夫なのかと心配する方がいるかもしれません。答は「ある方が良いが、無くても構いません」です。総務省から懇切丁寧なガイドラインも出ています。強いてどんな人が向いているかと言えば、ICT-BCPは大地震のような場合に発動・実行されるものなので、危機に瀕する状況を思い描くことが得意な人が良いと思います。たとえば、如何に早く必要物資を手配し必要な場所へ届けるかという非常時物流を思い描けるといいです。また、運用している情報システムの被害状況をすばやく掴むには、停電時、あるいは通信不通時は、ほとんど役に立たないICT部門が管理している機器ではなく、防災行政無線だったり、消防団の無線だったりするので、それらの活用の発想に長けているといいですね。

 

ICT部門も推進するべきでしょうか。答は、もちろん、Yesです。ただし、主に推進する人材は必ずしもICT部門からでなくて良いと思います。このあたりは各々の組織の状況によりますが、このような組み合わせを可能と考えるなら、選択肢が増えるでしょう。

 

続く

ICT-BCP

BCP(Business Continuity Planning)は業務継続計画と訳します。企業は、大きな災害や想定外の問題に見舞われた際、どのように生き延びるべきかの指針としてBCPを策定し運用しています。それは事業が持つ脆弱性が思っているより大きいためです。常に競争に直面している企業は、突然赤字に転落したり、場合によっては事業譲渡、あるいは倒産もあり得るのです。対極にあるのが公共事業体です。「つぶれる」ことを想像するのは難しいです。ところが、東日本大震災で明らかになったのは、庁舎が失われ、インフラが失われ、そして人材も失われると、住民サービスを継続することが非常に厳しいということです。しかも、代替してくれるところは無いのです。そこで、自治体にもBCPを策定し、危機に瀕する場合に、適切な対応を取ることが期待されています。特に、住民基本台帳の元データのように貴重なものが失われ、バックアップも同時に失われると、その復旧にとてつもない労力がかかり、その影響が被災した人々に及ぶことが明らかになりました。そのため、BCP策定の前であっても、ICT-BCPの策定を急ぐよう求められています。

 

ところが、なかなか策定が進んでいないようです。そこで、これまでの経験から、いくつかのポイントを指摘したいと思います。何回かに分けて書くことになると思いますが、ICT-BCPに取り組んでみようと思う人・組織が増えることを願っています。

HUG(避難所運営ゲーム)を含む図上訓練 (三川町)

11月12日に山形県三川町で行われた図上訓練の模様です。三川町の若手職員32名が参加しました。中央防災会議専門委員・東京経済大学名誉教授の吉井博明先生が講師を務められました。防災&情報研究所は訓練管理者として参加しました。

三川町では今年1月「災害時職員初動マニュアル」を作成し、防災・減災に取り組まれています。今回は、マニュアルを読むだけでは得ることが難しい発災時のイメージ確立と被害情報の具体的な集約方法、そしてHUG(避難所運営ゲーム)を通して避難者対応を学びました。特にグループワークの形態を取ることにより、参加者同士がお互いの意見を出しあい理解を深めることも目的のひとつです。

今回は4つの項目を取り上げました。①発災時のイメージ確立、②発災直後の庁舎等の安全確認、来庁者・職員の安否確認及び避難所開設準備、③被害情報のとりまとめ、④避難所運営ゲームです。

仮想の避難所(ここでは小学校体育館)に次々と避難者がやってきます。避難者の居住場所、家族構成(年齢、ペット含む)、それぞれの要望は全く異なります。それらを次々と判断しながら、適切な場所へ配置していくには、様々な配慮が必要です。この内容は事前に知らされていません。その内容に応じて、その場の判断を適切に行えるかどうかが訓練の対象となります。訓練終了後、避難所での課題を整理し、運営アドバイス行います。

 

本訓練は4時間では少し時間が足りなかったようです。ただし、初動の大切さを学び・理解すると同時に避難所での疑似体験も同時にできる貴重な訓練です。図上訓練では、様々な状況を想定してプログラムすることが可能です。

 

注)本研修は、(一財)消防科学総合センターが、総務省消防庁並びに(一財)全国市町村振興協会等の協力を得て実施する「市町村防災研修事業」の一環として実施するものです。

土砂災害ワークショップ (東京都八丈町)

11月23日に東京都八丈町で行われた土砂災害ワークショップの模様です。八丈町大里地区の方々を中心に約30名が参加しました。東京都八丈支庁主催です。八丈町の警察、消防、地元の消防団も参加しました。中央防災会議専門委員・東京経済大学名誉教授の吉井博明先生と当研究所土屋が講師を務めました。

八丈町大賀郷地域では、河口交差点の土砂災害危険区域に対し平成33年完成予定で砂防ダムを建設する計画が進んでいます。今回は昨年の大島町を襲った台風26号による土石流災害や今年8月の広島豪雨土石流災害を踏まえ、「いざという時、どうするか?」を参加者で考えました。実際、皆で河口交差点及び堰堤計画地近くのタウンウォッチングを行い、その後土砂災害危険区域や避難所を地図に落とし込み、避難する場合の経路を確認しました。

今年4月に公表された「内閣府避難勧告等の判断・伝達ガイドラインについて」のポイントを説明し、自分の命は自分で守る場合に活用できる情報源を紹介しました。そして、過去の事例として、2011年紀伊半島大水害、2013年秋田・岩手豪雨災害、台風26号による伊豆大島土石流、2014年広島市土石流災害を振り返りました。

まとめとして、ある状況設定において、どのような対応を取るか皆で話し合いました。多くの方々が素早い避難行動を取るのが良いと発言されました。また、単独行動ではなく、声を掛けあって避難するという意見もありました。大里地区は、八丈町でも古い地区のひとつで、人々の絆も固いことが伺えました。万が一、避難所への道路が土石流等で遮断されたら、土石流の危険が少ない建物に避難すること、それも困難な場合は、家の中で安全な場所(2階あるいは山と反対側)へ避難することを確認しました。

 

(参考)南海タイムス記事

文部科学省プロジェクトの展開

文部科学省「神奈川県に係る防災研究データベースの活用を起爆剤とした官学民連携による地域防災活動活性化研究」プロジェクトの展開

 

昨年度公募された文部科学省の「地域防災対策支援研究プロジェクト」に応募し、「神奈川県に係る防災研究データベースの活用を起爆剤とした官学民連携による地域防災活動活性化研究」が採用されました。この調査研究は、神奈川県下に存在する防災・危機管理等分野の人材や研究をデータベース化し、これらを起爆剤として、活用とネットワークを図ることを目的として実施しています。運営委員会の代表は、神奈川大学の荏本孝久教授にお願いし、委員には神奈川県下の研究者、行政、マスコミ関係者、ボランティア団体、企業団体等に参画していただいています。

 

■平成26年度第1回運営委員会を開催

 

昨年度は地方自治体と大学・研究機関の調査を行いました。今年度(平成26年)については、第1回運営委員会を6月4日(水)に開催し、学校と企業を対象とする、アンケート調査とヒアリング調査を併用した調査を進めることとなりました。また、研究成果に基づく地域報告会を開催することも決定しました。昨年度実施した研究者名簿の活用方法については、引き続き検討することとなりました。

 

■地域報告会の開催

 

本調査研究活動の一環として、平成26年3月23日(日)、神奈川県立生命の星・地球博物館において、「これから起こりうる神奈川県の地震と火山災害」をテーマとするシンポジウム(地域報告会)を開催しました。東京経済大学 吉井博明教授による基調講演「首都直下地震を事例とする地震被害想定」の後、6名の運営委員が登壇し、パネルディスカッション「備えよう!これからの神奈川の災害に向けて」を行いました。この中で、本プロジェクトの活動経過及び調査研究成果についても発表しました。

配布したポスター・チラシ

 

来場者は130名、運営スタッフ及び登壇者も含め総勢150名によるシンポジウムとなり、フロアも含め、首都直下地震に対する備えや神奈川県下の地震・火山の動向などに関する活発な質疑・応答がなされました。

シンポジウム受付の様子

神奈川県地形図

平成26年3月23日:パネルディスカッションのようす

平成26年3月23日:パネルディスカッションのようす

 

来場者に対するアンケート調査結果によると(88名の回答)、防災や危機管理に関する知的関心が高い人や、地域で防災・減災活動を行っている人が多く来場していました。セミナー・シンポジウムで知りたい情報としては、「防災・危機管理全般」が50%と最も多く、2番目が「神奈川の防災対策」35%、3番目が「地震・火山災害の起き方」33%でした(図参照)。これらの結果は、今後の研究推進や地域報告会開催の際の参考にさせていただきたいと考えています。

防災・危機管理セミナーやシンポジウムで知りたい情報

 

今年度も、学校と企業に係る地域報告会を開催する予定でいます。日程等が決まりましたらご案内しますので、ぜひご参加ください。

オンラインプログラミング学習

何かを学んで実際試すことができるようになると嬉しいものです。しかも、それを誉めてもらえると、子供の頃に戻ったような感覚が呼び覚まされるのは不思議です。夏休みに何かやってみたい、あるいは、あっという間に夏休みが終わってしまい達成感が足りないという人におすすめなのが、無料のオンラインプログラミング学習です。

 

プログラミングは、かなり前から米国で流行っているオンライン教育の中でも実用的なのが受けています。ちょっと前の記事になりますが、NewYorkTimesから ”A surge in learning the Language of the Internet“。無理に記事は読む必要はありません。ただ、最初に出てくる写真の左の人物、Zach Simsを覚えて欲しいのです。というのは、ひとつのレッスンが終わるたびに、Zachから「良くやったね!」とメールが届くようになるからです。

 

ZachはCodeacademyのCEOですが、事業も順調に大きくなっているようで、2011年に会社を設立後、今年はロンドンにオフィスを構え英国へ進出も果たしました(Codeacademy opens its doors in the UK to teach children coding skills)。確かに、プログラミング言語は万国共通なので、ちょっとしたローカライズで適用できるようになるでしょう。

 

さて、実際準備されているコースは、HTML&CSS、 JavaScript、jQuery、PHP、Python、Rubyです。

私はHTML&CSSとJavaScriptはひととおりやってみました。Pythonは始めたものの、似ているJavaScriptの方が身近な気がして、Pythonは途中で止まったままです。面白かったです。事前知識は要求されません。なるほどと感心したことが何度もありました。HTML&CSSでもJavaScriptでも、実際のプログラム結果を直ぐに表示するよう工夫されているので、こうすればこうなるのか、というのが、単に本を読むより遥かに理解が早いです。繰り返しになりますが、HTML&CSSは12の要素(レッスン)からできていますが、そのひとつが終了する度に、「良くやったね!」メールが届きます。それも、最後のクリックをした後、10秒程度で届くのです。このやりとりだけで頑張ろうと思う自分を発見するのも面白いものです。

 

もっと解説したいこともあるのですが、興味を持った人はとりあえずクリックしてみることをおすすめします。→ Codeacademy

 

記事の中でZachも言っているように、プログラムのリテラシーがあるということと、良いプログラマーは全く別ものです。でも、全く知らないのと知っているとの間にも大きな違いがあります。

図上訓練(東大阪市)

7月31日に東大阪市で行われた図上訓練の模様です。災害対策本部の本部長である野田市長はじめ本部員36名、及び本部補助員・消防補助員64名の総計100名の参加者により行われました。防災&情報研究所は訓練管理者として参加しました。

本部会議全景

新総合防災情報システムも4月から稼働し、この本部会議が開催される危機管理センターとともにそのお披露目も兼ねる図上訓練となりました。各本部員の前には、総合防災情報システムの内容を映し出すディスプレイが置かれ、危機管理室(災害対策本部事務局)が会議の進行状況に応じて、内容を切り替えて使います。

各部員執務状況

本部会議の向かいには、各部員が執務するスペースがあり、必要に応じて本部会議員との直接対話も可能なレイアウトになっています。

 

今回の図上訓練では、2つのグループを設定しました。市役所グループと消防局・消防署グループです。危機管理センター横のスペースに仮想消防局本部を設置しました。

消防局グループ

現場等の状況を想定して、まずここの部員及び消防局員に対し、当研究所で作成した「状況付与表」がある時間経過ごとに手渡されます。この内容は事前に知らされていません。その内容に応じて、部員あるいは消防局員がその場の判断を適切に行えるかどうか、特に本部会議員への報告、そして判断・許可が必要な場合の速やかな行動が訓練の対象となります。これらの対応は、「対応記録表」に記載します。

 

本訓練は発災後2時間を想定して行いました。体験版ではあるものの初動の大切さを学び・理解する貴重な訓練です。図上訓練では、様々な状況を想定してプログラムすることが可能です。

 

注)本研修は、(一財)消防科学総合センターが、総務省消防庁並びに(一財)全国市町村振興協会等の協力を得て実施する「市町村防災研修事業」の一環として行いました。

G空間の革新/ エピソード1

防災・減災にとって最も重要な情報源のひとつである地図の革新に関して、3年前に、ペンシルベニア州立大学クリエイティブ・メディアグループが作成したビデオが大変参考になる。エピソード1では、どうしてこのような状況になったのか分かりやすく描いている。工学的な説明はほとんど無いので、英語ではあるが、ぜひ見て欲しいと思う。全部で13分あまりである。

 

地球を回るGPS衛星から始まり、GPS受信機能を備えたスマートフォンを持つ我々が繋がっていることが描かれる。そして、普段使っているカーナビを例に取り、現代の地図というのは膨大なデータから成り立っていることを示す。そこから、年表形式で、紀元前2300年の地図の痕跡から、コロンブスの新大陸発見、各種測量による地図作成などを経て、第一次世界大戦の間に行われた航空機による写真撮影から地図に情報を落とし込むことの普及などが取り上げられる。その後、コンピュータの開発により、それらがデータとして扱われ、1985年に始まる米国Tiger(Topologically Integrated Geographic Encoding and Referencing)プロジェクトへ続いていく。2005年にGoogle earthサービスが開始され、モバイルデバイスへのGPS受信機能搭載が一気に普及し、現在に至ることが簡明に示される。そして、地図情報に他の情報を合わせることで、いろいろな可能性があることが描かれる。残りは、2010年のHaiti地震の際、十分な地図がなかったHaitiに対し、世界中で4,000名強の人々がボランティアとして地図作りに関わり、大いに役立ったことが、未来のクラウドソーシングの原点になる可能性を示している。

 

このシリーズはエピソード4まで公開されているが、エピソード1が最も良い出来な感じがする。おそらく、コメントをする人たちは共通なので、気持ちの入ったコメントが最も多く使われているからかもしれない。

 

防災・減災という観点からしても、改めてGPS受信機能を持つモバイルデバイスを最大限活用することと、発災後にそのモバイルデバイスから飛び交う情報を最適な判断、最適な行動に活かすアプリケーションの開発が重要であると思い至る。